デートなう
2-11話です。
さき5とのおデート話が続きます。
前回の話はこちら↑
そして、話さなければならない一番の用件をようやく思い出しました。
「あのね…?誰が好きとかそういうのは、もう言わない方がいいと思うよ?」
「何故ですか?」
「彼氏がそれを聞いたら、よく思わないでしょ?嫉妬なんかされたら面倒じゃない。」
「そうですよね…分かりました。お口にチャックです。」
そして暫く雑談をした後にお店を出て、ゲーセンへ向かう事にしました。
なんと(と言うか当たり前かもしれませんが)ゲーセン初体験だそうで、とても嬉しそうな顔をしました。
某シューティングゲームをやったら、目をキョロキョロさせていて途中からレバー操作をしている手ばかり見ていました。
ゲームを始めてみた人の行動って、こんな感じなんだ…と少し感動。
さき5は一回だけテトリスで遊びました。
これだけは共有記憶の中にあったみたいです。
そしてゲーセンを出て、西新宿の街をぶらぶらと歩いているうちに様々な思いが頭の中を駆け巡りました。
彼女は、何の準備も無く、この世に放り投げられた。
そして、心の準備も無いまま、婚約者が決められていて…、そんな環境に不満も言わず、ただじっと耐えている。
ドラマや小説でありがちな不幸な設定がここにリアルで存在している。
そんな事を考えていた自分は、自然に彼女を抱き寄せていたのです。
「…嫌?」
「…嫌じゃないです。…嬉しいです。好きな人にこんな事してもらえて…」
さき5は一瞬驚いた表情を見せましたが、すぐに落ち着いたような感じで身を任せてきました。
今川本に戻ったらどうなるんだろう、なんて正直ビクビクものでしたがこれくらいの事はしても大丈夫だよな…なんて思いながら数分間そのままでした。
そして抱擁を解き、さき5を見ると幸せに満ち足りた目。
まさしく「目がハートマークの状態」。
なんでこんな自分を好きなんだろう…と思っていたら、そんな悠長な事を思っていられない事に気がついたのですが、時既に遅し。
「ちゅっ」
「ちょっ!川本が覚えてたらどうするの!?」
「大丈夫ですよw」
「一体何の根拠があって言っているんだか…川本にはともかく、同居人にも今日俺と会ったのは内緒だよ?」
「はい、お口にチャックです。」
そして暫く新宿を歩きました。
「は~、川本はいいなあ…。好きな人と一緒になれて…。」
さき5は時々ため息交じりに言い、特に気の利いた返事ができないまま、その日は20時過ぎた頃にお別れしました。
その日の夜もメッセンジャーで会話。
「今日は有難うございました。わざわざ新宿まで来ていただいて。…川本と私どちらが好きですか?」
少し悩んだ末
「どっちも同じくらいに友達として好きだよ」
と、答えてみたのですが、
「友達ですか…」と寂しそうな返事。
「川本には婚約者がいる訳だし、そこはきっちりしないと。」
「そうですね。…私もメインになりたいです。」
「メインになりたい」と言う感覚はなかなか理解できません。
何かを頑張れば、なれるのでしょうか?
でも、そうなった時に川本や川本の彼氏がどうなるかを考えると、素直に応援する事もできず、ただただ返答に困るのみです。
「あ、同居人がチャットしたいそうです。いいですか?」
!!!
まさか、あれだけお口にチャックと言っていて、バラした筈も無いよな…と、かなりドキドキものでしたが、「チャットをしたい」と言っていると言う事は、おそらく彼はこのメッセンジャー画面を見ているであろう事を想定しなければならず、この瞬間にその確認を取る術はありませんでした。
電話をかければ、余計に怪しいだろうし。
おそらく先日は頭が混乱していた彼も数日おいて冷静になってきたのだろう…と思い、了承の旨を返答しました。
恐惶謹言