違和感があるような無いような
2-10話です。
さて、さき5と初めて会う事になりました。
前回の話はこちら↑
遠目に見ると確かに川本だ…、いや、本人だしな…なんて見当違いな事を思っていると、向こうもこちらを発見したようです。
恥ずかしそうにうつむきながら小走りをして寄ってきました。
「ごめんなさい…、少し遅れちゃいました。」
息を切らせながら、そう言う様は川本では無い…?
口調や仕草とか。不思議な違和感です。
「本当に…、さき5なの…?」
「そうですよー?」
今にして思えば、初対面なのに形式ばった挨拶も無く、時々会っているような感じで、もう違和感だらけと言うか何と言うか。
始めて会う時って、まず外面を見て、そこから内面を見るかと思います。
でも、この場合は外面も内面もすでに会っていて、内面だけが違うと言う異色の出来事で説明はとても難しいのですが、とにかく違和感なんです。
その後の行き先は既に決めていました。
数年前、友人に連れられていった事がある喫茶店なのですがハイチコーヒーと言うそのコーヒーは、ブランデーが付いてきて、数滴垂らすとなんとも良い感じの香りが出ます。
以前にコーヒー通だと自称する川本とその話をしていて、今度行こうと決めていたのです。
じゃあ行こうか、と二人で歩きだしました。
さき5は川本とは違って、ものすごく恥ずかしそうに横を歩いていましたがペットショップの前を通る時に、ケースの中の仔猫を見るといきなりダッシュで駆け寄りました。
「あ~っ、可愛い~っ! クーロンさん!ねこ、ねこですよっ!」
可愛い物を見る目。
それはメイド喫茶でメイドに萌えていた川本と同じでした。
そして、目当ての喫茶店へ。
ハイチコーヒーは、さき5に好評でした。とりあえず安心。
そして、今日の養成所がどうだったのかを聞きました。
「まず人格が変わっているとバレないように、川本と同じような事をしました…。」
「同じって、どんな事?」
「すごく恥ずかしかったんですけど…、男の友達に抱きついたり…。
たっちゃんにも抱きつきましたよ。」
「…たっちゃんは多重人格の事知っているんだから、川本のフリする必要ないじゃん…」
「…!…そうですよね…恥ずかしい…」
真っ赤になって恥ずかしがる「さき5」。
そこまでして川本のフリをして養成所に通う必要があるのか。
でも、多分それは「さき5」の意思ではなく、「彼女たち」の総意であり、それに無意識のうちに従っているだけなのでは無いかと思ったりもするのです。
聞きたい事は沢山あるのですが、一番知りたかったのは「記憶」についてです。
「川本として過ごした時の記憶はどれぐらい分かってるの?」
「ほとんど全部分かってますよ?」
「彼氏とのHの時の記憶も?」
「…はい(照)」
「彼氏はどんなHをするの?」
「どんなって…、最初は胸から…って、なんでHの事ばかり聞きたがるんですかっ(照)」
「ごめんごめんw、じゃあさ、今こうして俺と会っている時の記憶も川本は後で分かるって事?」
「うーん…どうなんでしょう。川本は物を忘れすぎなんですよね。覚えてないんじゃないんですか?」
「そうだよねえ、チャットの途中で人格変わったとして、その後の事は覚えてないって言うもんね。」
「ホントに川本にはもうちょっとしっかりしてもらわないと……ところで、クーロンさん。」
「は、はい!?」
いきなり真顔で見られたので、ドキっとしました。
「私は告白したのに、答えを聞いていません。」
「え”。…答えも何も、川本は婚約者が既にいる訳だし…。」
「…そうなんですよね…。」
泣きそうになる、さき5。
同情や気休めの言葉を使うべきなのでしょうが、こういう時に機転が効かない自分のボキャブラリーの無さを呪いました。
恐惶謹言
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