再び対峙
2-27話です。
さて、川本にさき2の事を深く聞いてみます。
前回の話はこちら↑
さき2が何故「消えた」のか。
今を遡る事数年前、彼女の人格は「川本」こと「さき4」迄発生している状態で、彼氏と付き合っていきたい「川本」と、別れたい「さき2」の間で「葛藤」が生まれ、その勝者となったのが、川本で、その結果、さき2が出てくる事が無くなったのは以前書いた通りです。
「彼氏がいると甘えちゃうから、それが嫌で。強く生きていたいんだ。母親を見てきたから、男に頼る人生は嫌だって。」
単に彼氏を嫌いになったから別れたいのでは無く、もっと深い意味があったようです。
「俺の稼いだ金で飯食ってるくせに!とか言われてたから。」
「それは、お父さんがお母さんに言ってた台詞?」
「うん。無茶苦茶なんだよ、子供の為に家にいろって言ったくせに。」
典型的な亭主関白に見えますが、かなり度を越しているように見えます。
「そういう家庭環境にあって、生きる力を失ってしまったのが、さき1か。」
「うん。さき1は、ずっと夢を見ながら眠ってるよ。ずっと奥底で。」
それから、またチャットを控える話に戻り、散々質問攻めにあいましたが色々と自分もゆっくり考えたいところもあったので、半ば強制的にメッセンジャーを切り、その日は就寝しました。
翌日は、ネットをする気になれず、布団にもぐり、ぼけ~っとTVを見ていたのですが、夜0時近くになり携帯が鳴りました。
発信者を見ると、川本です。
無視を決め込もうかとも思いましたが、何気なく取ってみると
「もしもし…川本の彼氏です。逃げないでくださいよ~。」
ぎょぎょぎょっ!!
背筋が凍る思いと言うのは、まさにこの事。
「い、いや、逃げてる訳じゃないですよ。」
勿論大嘘です。
「電話だと何なので、チャットで話しませんか?」
「…はい。じゃ今からパソコン点けますね。」
そして電話を切り、パソコンの電源を点けました。
電話ごしに怒鳴られた方が、どれほど気が楽か。
これほど嫌な気持ちでパソコンの起動音を聞いたのは初めてでした。
パソコンを起動し、メッセンジャーを起動させます。
メンバーリストのオンライン一覧の中に、川本の名前が見えます。
「話はさき2から聞きました。」
「川本やさき2から」では無く、「さき2」と言っている辺りが怖いです。
「結論から言うと、今まで通り友達として、川本やさき5と関わってもらえますでしょうか。」
へ???
何故禁忌を犯した自分にそこまで寛大なのだろう?
「今回の事は交通事故のようなもので、青信号で渡っているのに車が来たような事だと考えます。」
「交通事故ですか…すごい例えですね。」
「つまり、二度目は無いと誓えますか?例え裸で迫ってきても。」
この言い方には、かなりカチンと来ました。
「誓う誓わないの話をする前に、さき5を説得するのが順番として先だと思いますが。」
「さき5がこれから積極的にアプローチをしたとしても、貴方さえそれに応じなければ、済む問題だと思いますが…。」
…確かに、彼の言っている事は正論かもしれない。
ただ、彼は「川本達」の婚約者であり、保護者でもある。
その立場である彼が言う言葉なのだろうか。
続けて、彼は「理性の問題で、どうにでもなる。」と発言をしました。
根本的な原因を改善しようと言う意志が全く感じられなかった。
今回、これで自分が Yes と言えば丸く収まるのかもしれない。
だが、これから新しく発生する人格が、また別の人を好きになったら…?
彼はその都度、相手に対して同じ事を言い続けるのだろうか。
理性が無い、との意味合いに取れる発言に対して、
理性では無く、同情の占める割合が大きい、と返答しました。
「同情と言っている意味が掴めません。」
「可哀想だから、と言う意味です。」
「あなたの行動と、言葉が繋がりません。私の事は頭に無かったのでしょうか?」
…なんだろう。何かが引っかかる。
こちらが謝ってしまえば済むと分かっていても、何か釈然としないものがあり、思考の奥底で「まだ謝ってはいけない。」と警鐘を鳴らしているのが自分で分かりました。
変に意固地になっていただけかも知れませんが。
恐惶謹言
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