養成所での生活
2-7話です。
なんと、川本は声優養成所に受かってしまったみたいです。
前回の話はこちら↑
「これも全部クーロンのおかげだよー」
「いや、何もしてないよ。」
「だって、クーロンが声優になれるかもって言ってくれたから頑張ったんだもん。」
声優になれるかも、なんて一言も言った記憶は無いのですが、最初のオフ会の時の「ホントに声優みたいな声だね」と言うのが、余程嬉しかったらしいです。
あの発言があったから、養成所受験を固執していたのかな…?と思うのは自意識過剰と言うものでしょうか。
当日夜のチャットでは、祝賀会みたいな感じになり、皆から祝福のメッセージが川本に送られました。
祝福メッセージと言うよりは、
「声優デビューして○○さんと一緒に仕事したらサイン貰ってね!」
とかそういう邪なものが大半でしたけど…w
「ありがとう、皆!川本頑張って声優になるからね!」
チャットメンバーの中には、川本の他にも高校受験・大学受験を向かえる子がいました。
どうなる事やらその都度心配だったのですが、なんと全員志望校合格と言う結果。
「このチャットルームは福を呼ぶ部屋だね。」
なんて嬉しい事を言う子もいる中、それぞれの生活が新しい環境でスタートします。
さて、川本が通う養成所の授業はどのようなものかと言うと、週三回レッスンがあり
ダンスレッスン、ボイストレーニング、演技レッスンをそれぞれ一回行います。
「ダンス」と聞いて、一年間寝たきりで現在ネットジャンキーの川本が果たして皆に
ついていけるのかどうかとても心配でした。
合格が決まった時から基礎体力をつけるべくウォーキングを勧めていたのですが、ダンスの授業はとてもハードらしい。
常人でもついていけなくて座り込んでしまう人が続出しているらしいです。
こう言ってはなんですが、声優を目指す少年少女が体を鍛えている訳もなく単なる疲労で倒れる分には、他の人も川本も同じな訳で…
…ただ、いくら倒れると言っても、川本のそれはやはり常人とは異なります。
前に会った時の事。
皆でお茶をする為に喫茶店に入ったのですが、川本は、「うっ…」と唸ったかと思いきや自分の膝の上に倒れこんできました。
「…どうした!?」
「………っ!」
「救急車を呼ぼうか?」
「…大丈夫、暫くすれば収まるから…」
その場は大人しく回復するのを待ちました。
原因は、以前行った甲状腺切断手術の副作用によるものです。
常人なら肺と内臓が分かれているのに、癒着してしまっているらしく時々不定期に激しい痛みが発生するらしいです。
過労で倒れるならまだしも、この肺の痛みで倒れた場合には、そう何回もごまかしはきかないだろうと言うのは予想ができます。
せめてダンスだけでも見学を多用するとかした方がいいのに、と何回も言ってはみたのですが、「皆勤賞を狙って就職を有利にしたい」と言い聞く耳を持ちません。
いくら週1とは言え、3年間も騙せるものかなあ…。
川本とはチャットの他にも時々会って話を聞いていたのですが、養成所でも友達ができてきたようで、養成所生活はなかなか楽しそうです。
ただ、養成所の生徒は圧倒的に10代の子が多く、ジェネーションギャップについては苦労しているようです。
それから二週間程たったある日、チャット中でちょっと注意をした時に川本は「さき5」に変わってしまいました。
人格が変わっても、体のどこかに悪影響があるとかそういうのでは無いのは本人より説明を受けて知っていたし、さき5と直接話してみたい欲求に捕らわれたので、そのままチャットを続けてみました。
そして、これが後にして思えば、開けなければ良かったパンドラの箱だったのです。
恐惶謹言
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